弱いつながりが多様な情報伝播を加速する:ソーシャルネットワークの役割と可能性

Facebookには、データ研究チームがある。その研究チームが先日、新しい研究成果を論文として公開した。

Role of Social Networks in Information Diffusion(情報伝播におけるソーシャルネットワークの役割)

これは、Facebook上で情報がソーシャルグラフを通じてどのように伝わっていくかを研究したものである。この内容が一般の人にも理解できる形で「Rethinking Information Diversity in Networks(ネットワークにおける情報多様性についての再考)」と題されて、Facebook上で公開されている。

今回は、この研究成果を要約するとともに、この研究がどのような実験環境のもと行われたのかを紹介したい。その上で、ユーザーにとって今後ソーシャルメディア上での情報シェアがどういう影響を与え、価値を生んでいくのかについて考えてみたい。

研究概要

Role of Social Networks in Information Diffusion(情報伝播におけるソーシャルネットワークの役割)」は、ソーシャルネットワーク上における、情報が広がる特性についての研究論文である。

ソーシャルネットワークについては、「仲良しの友人からの情報を見たりシェアするだけで、多様な情報の流通を阻害する、閉じられた音響空間のようなものだ」と主張する人がいる。研究成果は、この主張をくつがえすものといえる。

具体的には、ソーシャルネットワーク上においては、ユーザーは親しい友人間で頻繁にやり取りをするものの、関係が疎遠で日常的にやり取りしないユーザーから受け取る情報のほうが圧倒的に多いというのだ。疎遠な友達は、趣味や関心が異なる傾向があり、彼らはユーザーにとって新鮮な情報をシェアする。よって、ソーシャルネットワークが新しいアイデアや製品をシェアしたり、議論するための強力な媒体となる、というのだ。

ソーシャルグラフの強いつながり、弱いつながり

社会経済学者Mark Granovetterが提唱した強いつながり、弱いつながりによる情報伝播(The Strength of Weak Ties )についてご存知の方も多いだろう。

(via Facebook)

現実世界のソーシャルグラフ(人間関係)には、頻繁に連絡をとる「強いつながり」、滅多に連絡しない「弱いつながり」に分けられるが、異なるクラスタの人たちからの情報は弱いつながりから流れてくる(上図のオレンジ色の線)という仮説である。弱いつながりは、強いつながりによって作られるクラスタをつなぐような役割を果たし、そこから入ってくる情報がソーシャルグラフ全体に伝播することになる。

オンラインでも弱いつながりが多様な情報を広める

一方、オンラインでの情報の場合は、人とのつながりに加え、共有性が重要になる。人は共通の特性(趣味、職場、学校、信条など)を持つと人とつながるが、この共有性は人のつながりだけでなく、Web上で探す情報も含まれる。頻繁にやり取りする人は、同じ情報を見る傾向があり、疎遠な人は異なる情報を見る。

Facebook上においては、強いつながりの友人の投稿ほど、ユーザーに影響を与え、シェアされることが今回の調査からも明らかになった。これは共有性が高いことが要因になる。

そしてさらに、Facebookが情報の伝播力をどれくらい増幅させるかということについても調査をした。

以下の図は、つながりの強さによって情報の伝播力を比較したものである。具体的には、強いつながりと弱いつながりからの投稿がニュースフィードに表示され、結果として何回シェアしたかを調べたものである。

(via Facebook)

弱いつながりは、シェアされなければ目にしないような斬新な情報を広める。弱いつながりによる情報はシェアされさらに伝播する乗数効果は10になる。一方、強いつながりの友達の場合は、乗数効果は6になる。

よって、弱いつながりのほうが情報を露出させる潜在力があるといえる。

この理由がもともとの数の違いである。Facebookの友達は、強いつながりよりも弱いつながりの友達のほうが多い傾向にある。よって、弱いつながりが集まることでシェアする回数としては増えるのである。例えば、強いつながりの人(10人)からの情報をシェアする可能性を50%、弱いつながり(100人)からくる情報をシェアする可能性を15%とする。結果としては、10×0.5=5、100×0.15=15となり、弱いつながりからの情報のほうが3倍、多くシェアすることになる。

結論

Facebook上では、異なる知見を持つ弱いつながりによって情報の多様性を生み、強い関係よりも遠い関係からの情報を目にすることが多く、またシェアする可能性がある。

今後はさらに年齢、性別、国籍、コンテンツ種類、人気、表示などの違いによる情報伝播についても調査する。

研究の背景

この研究レポートについての背景が以下の記事に紹介されている。

The End of the Echo Chamber

Facebookのデータ研究チームはネットワーク上のユーザーの行動を学術的な知見から研究することを目的としている。このレポートは、 情報学の博士号を持つEytan Bakshyによって行われた。彼は会社から研究したいことを研究してよいと言われ、誰からもあれやれ、これをやるなといわれない環境で今回の調査を行った。現在、彼の研究論文はピアレビューの段階にあるという。

彼は、2010年夏に7週間にわたってニュースフィード表示の実験を行った。それは、エッジランクがニュースフィード上に表示させると判断したデータの一部を非表示にするというもので、以下の2つのグループを作った。

・友達が投稿したリンクが表示され、自分でシェアするか無視するか判断できる

・友達が投稿したリンクを受信できない、しかしFacebook以外の場所でリンクをみたら、自分で同じリンクをシェアできるか判断できる

こうした実験ができる環境があったことが、今回の実験の価値を高めている。

この結果として、Facebook上で見ることがなければシェアすることのない斬新な情報はネットワーク上に伝播しやすいことがわかった。よってFacebookが閉じられた情報のみをエッジランクによって配信すれば、閉じられた音響空間になるが、ネットワーク上の斬新な情報も表示されれば、Facebookは自分の興味に閉じた世界の情報だけでなく、多彩な情報の源として有益になる。

つまり、仲良しの友達とのやり取りは頻繁に行われ、閉じられた音響空間を作る。しかし、弱いつながりからの情報もシェアすることで、それはネットワーク上に広まるようになる。友達がシェアする情報は他で見つける可能性が高いが、弱いつながりからの情報は、Facebookでシェアされたことで初めて見る情報となる。

Facebook上の関係においては、強いつながりよりも弱いつながりのほうが多いとすれば、Facebookは自分の世界観を確認するものというよりも、自分の殻をやぶるきっかけにもなる。

この研究は、当時5億人のユーザーのうち、2億5千300万人を実験対象とし、7千500万のリンク、約12億の事例をもとに導きだされた。この規模での社会学的な見地からの研究は他に類を見ない。

ソーシャルメディア、特にFacebookにおける情報シェア行動

今回の調査データは、ユーザーが日頃からのソーシャルメディア活用において感じていたことが実データとして証明されたことになる。Facebookにおいては、平均的なユーザーの友達関係は、強いつながりよりも弱いつながりの方が数が多いため、この特徴が特に表れると考えられる。

このデータ研究からは3つの点が示唆される。

シェアされる情報とされない情報の二極化

友達の間だけで受ける内輪ネタと広くネットワークを伝播する情報が二極化している。

例えば、ご飯の写真、自分の血圧などは、親しい友達からは反応があるだろうが、関係の薄い弱いつながりにある人には興味を持たれない。こうした情報しか発信しない人は、弱いつながりの人からニュースフィードでの表示をオフにされる可能性が高いため、情報の伝播力は弱くなる。

一方で、専門的な見地からピックアップされた情報や共感できるストーリー、印象的な写真などはシェアされやすい。特に研究でも述べているように、自分の情報収集から漏れるような新鮮な情報で、自分の専門分野と異なっても興味深い情報は、シェアされる可能性が高くなる。

シェアされた時の動作で言えば、画像がシェアされる場合、画像とその画像につけた説明が一緒にシェアされるので、強いインパクトをもってシェアされる。

例えば、先日「北京2008」と題された画像がFacebook上で2,500件以上シェアされた。絵のインパクトもあるが、その画像につけられた解説が示唆に飛んでおり、価値ある情報としてシェアされ続けたことが予想される。

一方、リンクを紹介した投稿の場合、オリジナルのコメントは消えて、リンクだけがシェアされることになるので、シェアされた先での影響はシェアした人のコメントによるところが大きい。これは、特に日本語以外の言語の場合、顕著である。つまり、オリジナルの投稿で記事の要約をコメントとしてつけたとしても、リンクがシェアされるときに、コメントが分離し該当リンクだけになる。よって情報を受けた人がその言語を習得していない場合、「何が書いてあるの?」というようなやり取りで終わってしまい、次の議論に発展しないのである。

情報を収集したい人にとっては強力なプラットフォームに

Facebookでは、友達だけでなく、著名人やジャーナリスト、芸能人からの情報も「フィード購読」という形で情報を収集できるようになっている。フィード購読によって、弱いつながりすらない相手からの情報を収集できるようになったことは、情報収集プラットフォームとしての可能性を大きく広げたと考えられる。もちろん、Facebookページの情報も、直接はつながりのない相手からの情報となる。

この特性はTwitterやGoogle+も備えているが、エッジランクというアルゴリズムとユーザー数、Facebookページ数を考えると、情報収集プラットフォームの可能性は、Facebookのほうに分があると言える。

積極的に情報収集をしたい人にとっては、バランスよく多様なジャンルにアンテナを張ることでFacebookを強力な情報プラットフォームにできる。もちろん、こうした利用方法をする人が増えるほど、自分の意見や考えを広めたい人は、ソーシャルメディア上での情報発信をより積極的に行っていくことになる。

一方で、mixiはあくまで仲が良い友達との関係にフォーカスした情報発信を目指している。mixiページが、友達のアクションによってユーザーのニュースフィードにページの情報が表示されることを売りとしていることからもわかるように、基本的に友達のつながり(強いつながり)が重視されているので、「閉じられた音響空間」を作っていることになる。

mixiのこの雰囲気が良いという利用者も多く存在することから、Facebookとmixiは完全に別の方向を目指したほうがよいだろう。

実アカウントと実データを使ったFacebookの実験への反感

さて、今回の調査の背景として、Facebookが一部のユーザーのニュースフィード表示を実験的に操作してデータを収集していることが明らかになった。この実験は調査目的であり、ユーザーのFacebook活用において、大きな不具合をもたらすものではないと考えられるが、コメントなどを見ると一部のユーザーにとっては、ショックもあるようだ。

今後、Facebookが恣意的にニュースフィードを操作する可能性も否めないということになる。例えば、Facebookに関するネガティブ情報の排除するということも可能であるし、選挙や政策情報に関する情報をブロックすることも技術的には可能ということになる。

もちろん、情報操作が行われるようになったら、Facebook自体の信頼性を大きく揺るがし、ユーザー離れを引き起こすことになるため、不用意な操作を行うことはないと考えたい。

むしろ、こうした研究データに基づいてエッジランクなどのニュースフィード表示のためのアルゴリズムが改訂されることで、より適切な情報が配信されることに期待したい。

まとめ:弱いつながりからの情報が伝播する中で生まれる価値

今回はFacebookが発表した研究データを元に、ソーシャルネットワークにおける情報の伝播について考えた。

十数年前までは受け取れる情報ソースが限られていたが、現在は自分のネットワークを使って多様な情報を収集できるようになった。これは大きな変化である。情報は仲介され、共有される中で議論を生み、同時に新たな価値も生んでいく。もちろん、ソーシャルネットワーク上にはデマ情報、誤解された情報が伝播することもあるが、共有される中で訂正されて終息していくことが多い。

なお、研究内容について詳細なデータを知りたい方は、冒頭にて紹介した論文を参照するとよいだろう。実験データの解析データ(数式やデータ)、二つのグループの人口統計データ、つながりの強さの算出方法、アクション単位の統計データなども記載されている。

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