事例:調査レポートがオンラインショップのキラーコンテンツに

コンテンツマーケティングというと、コンテンツ制作のためのコスト(人、時間、費用)が問題になります。確かに、定期的に品質の高いコンテンツを発信し続けるためには適切な体制を整え、予算を確保することが重要です。

しかし、コンテンツ自体は、専門外のことや知らない事柄について、ゼロから調べて作成するわけではありません。以下の記事でも紹介したように、すでに社内にある知識やノウハウ、あるいは製品開発やマーケティングのための調査データなどをコンテンツ化すればよいのです。

コンテンツマーケティングの壁:知識をコンテンツ化する方法

なお、コンテンツマーケティングの重要性や利点などについては、以下の記事を参照してください。

B2B企業におすすめ!ブログマーケティング

今回は、MarketingSherpa事例集(有料)から、アメリカの旅行用かばんの販売会社であるSuitcase.comの2010年と2011年の事例を元に、コンテンツマーケティングを戦略的に行うことで、どれくらいWebサイトに人を流入させることができるのかについて考えます。

なお、コンテンツマーケティングは、インバウンドマーケティングとも呼ばれます。中(企業)から外(顧客/生活者)に向かって呼び込みにいくのではなく、中(企業)に置いたコンテンツに惹かれて、外(顧客/生活者)から能動的にやってきてくれるマーケティング手法です。

ブログを見に来た人にもっと満足してもらうために

旅行かばんの販売会社Suitcase.comは、広告費をかけることなく、旅行かばんを探している人がより役立つコンテンツを提供していたいと考えていました。同社は既存のマーケティングチャンネルである、メルマガ、検索、広報、ソーシャルメディアを最大限に活用することを目指しました。

旅行かばんについてのトレンド、意識調査:2010版

旅行かばんと一言に言っても、特にアメリカの空港では、TSA対応の鍵によるかばんのロック、重量オーバーやサイズオーバーによる課金、持ち込める個数制限など、さまざまな要件があるため、単に自分の好みだけでは選べないという事情があります。

そこで、アンケート調査を行い、その結果を調査レポートとしてWebサイトに無料で公開することにしたのです。この調査レポートの作成、公開にあたっては、以下の戦略を意識しました。

戦略1:検索キーワードにひっかかるレポート

調査レポートのトピックを選ぶにあたっては、検索エンジンのキーワード分析を行いました。分析にあたっては、Google アドワーズのキーワードツールを活用し、顧客の興味を調査しました。

また、競合他社がすでに同様の取り組みをしていないかどうかも調べました。オンリーワンのコンテンツであれば、専門的なリソースとして価値が生まれるからです。調査結果、同様のものはないことを確認しました。

戦略2:調査対象者を旅行かばんに興味のある人に限定

調査は、サードパーティの調査ツールを使ってアンケートが行えるようにしました。参加の動機を高めるために、アンケートに全問回答した人のうち、抽選で4人に無料ディナー券をプレゼントすることにしました。

オンライン調査なので誰でも参加してもらうことは可能です。しかし、「誰でも」にすると、プレゼント狙いの人たちが適当にアンケートを埋めてしまう可能性があります。そこで、精度を上げるために調査対象者は、旅行かばんに興味のある人のみにしたのです。

では、旅行かばんに興味のある人はどんな人たちなのでしょうか。

答えは、同社のメルマガを購読している人たちです。メールを通してアンケートの告知と調査依頼を出しました。

戦略3:読まれるレポート構成

2010年版のレポート「Suitcase.com 2010 Consumer Luggage Report.」は9ページで以下のようなものから構成されます。

・表紙

・目次
・サマリー、調査方法、結果のダイジェスト
・統計データとグラフ
・分析とコメント
・会社の説明

このレポートは、いわゆるジャーナリストが好きなタイプの構成になっています。データが豊富で分析もあり、広告的な要素がほとんどありません。9ページという長さも内容を理解するには十分でしょう。

戦略4:ダウンロードしたくなるランディングページ

ここで注意したいのが、読者にとって普通のWebページの閲覧に比べてダウンロード資料はめんどくさいものであるということです。よほど魅力的な情報が掲載されているように感じなければ、わざわざダウンロードしません。

Suitcase.comではダウンロードページに重要な統計データと色つきグラフを掲載し、興味をひくようにしました。

戦略5:広告を使わず周知する

同社は広告を使ってレポートを宣伝しませんでした。宣伝せずにどうやって広めたのでしょうか。

一つはニュースサイトなどにプレスリリースを配信することでした。リリース文には、荷物の料金、旅行かばんなどの重要なキーワードが目につきやすいようにし、Suitcase.comとダウウンロードページへのリンク、調査のポイントなどを掲載しました。

二つ目は旅行関係の有名ブロガーとメディアへのレポートリリースのお知らせです。このとき、ブロガーやライターに連絡するときに、一斉配信風の定型文を使うのではなく、個別に宛てたメールとしてお知らせをし、ブログやメディアで調査レポートの内容を取り上げてもらうように依頼しました。

戦略6:旅行関連ではない企業に取り上げてもらう

おもしろいのが、最後の戦略です。同社はTwitterアカウントと、Facebookページを運用していましたが、十分なフォロワーを獲得できていませんでした。しかし、ソーシャルメディアが情報を伝えるためのツールとして効果的であることは理解していました。

そこで、ソーシャルメディア上で影響力のあるPR会社などのパートナーに対して取り上げてもらうように依頼しました。この時、レポートの調査結果や内容について取り上げるのではなく、コンテンツ戦略に焦点をあてて紹介してもらうようにしたのです。

理由は、PR会社などをフォローしている人たちが興味を持つのは、旅行かばんのことではなくて、PR手法としてのコンテンツ戦略であると考えたからです。

例えば、以下はコンテンツマーケティングで有名なHubspotのブログ記事です。

Pack Your Bags: How Content Marketing & PR Combined Can Generate Leads

結果:5倍のトラフィック、直帰率は16%低い

さて、この調査レポートの掲載後、同社のブログへのトラフィックは5倍になりました。2010年のダウンロードページへのアクセス数はサイトの中で一番高くなり、ダウンロードページの直帰率はほかのページに比べ16%低くなりました。

さらに進化した2011年版レポート

さて、2010年版の調査レポートを使ったコンテンツ戦略は大成功でしたが、2011年もまた同様のキャンペーンを行うことにしました。

戦略1:潜在的なトピックの調査

2011年のレポートでは、変更の早い航空業界のルールを押さえ、最新のニーズやトレンドを抑える必要がありました。

そこで、昨年同様に検索エンジンのキーワード分析を行い、需要の高いトピックを探しました。また、競合他社が同様のレポートを公開していないかも調査しました(昨年同様、他に出しているところはありませんでした)。

さらに2011年は同社の実店舗の従業員から、顧客の要望や疑問などを聞いてトピックを検討しました。同社はオンライン販売が中心ですが、一部実店舗での販売も取り扱っていたのです。

こうした調査を元に新トピックやトレンドを調査項目や選択肢に追加しました。

戦略2:アンケート作成、調査依頼は昨年同様

アンケート作成については2010年同様、サードパーティのアンケートシステムを利用し、5分程度で終了するアンケートを用意しました。また、2010年同様、メルマガの購読者にアンケート調査を依頼しました。2011年の抽選プレゼントは旅行かばんにしました。

このように、2010年に成功しているプロセスは変更しませんでした。

戦略3:年間調査レポートの新バージョンであることがわかるように

調査レポートの構成は、2011年のものとほぼ同様です。また、検索のことを考えてタイトルを大きく変更するのもやめて、「 The 2011 Consumer Luggage Report」としました。

また、宣伝目的にとられないように製品へのリンクなどは最低限に留め、あくまで統計データとその分析を中心にしました。2010年の結果から、役立つコンテンツは多くの人に閲覧され、共有されるだけでなく、検索エンジンも上位表示するようになることがわかったからです。

戦略4:2011年はソーシャルメディアも活用

2010年は、ソーシャルメディア活用が軌道にのっていないこともあって、他社に取り上げてもらうことを目指しましたが、2011年は自社のFacebookページ、Twitterでレポートをの公開を告知しました。また、ブログでレポートの公開を周知しただけでなく、それ以外のブログの記事でもレポートのデータを参照するようにしました。

2010年と同様にプレスリリースも配信しました。また旅行関連のサイトのインタビュー取材に応じるといったメディア対応も行いました。

戦略5:ブログのコンテンツ戦略の変更

2010年、2011年のレポートによって、同社は旅行かばんを買う人の心理がわかるようになりました。そこで、同社のブログでは、意図的に以下のようなタイトルの記事を増やすようにしました。

・TSAルール:空港保安のためのパッキングのコツ

・空港内の危険:荷物の盗難とスリを防ぐには
・荷物の持ち込み:覚えておきたい空港のルール

これによって、ブログのコンテンツが読者にとって役立つものになり、結果として同社のブランドのアピールにつながりました。さらに、生活者が空港への荷物持ち込みについて検索すると、こうした記事がヒットするようになり、より多くの人がアクセスするようになりました。

また、Facebookページでもこうした情報を発信するようになりました。

結果:2010年よりもダウンロード数が大きく増加

2010年と比較した2011年の結果は以下の通りです。

・公開後のダウンロード数が212%増加

・公開後の4月から9月のダウンロード数が、2010年の同時期とくらべ、70%増加

まとめ:コンテンツマーケティングは継続に力あり

Suitcase.comのコンテンツマーケティング戦略は、アイデアが豊富で、非常に参考になります。アンケートの調査対象者を数ではなく質に置いた点や、ソーシャルメディアの影響力が弱い時には、他の企業に取り上げてもらうといった施策も新鮮です。

2011年の施策は、2010年とほぼ同様ですが、なぜアクセス数が激増したのでしょうか。それは、レポートだけではなくブログやFacebookでの投稿を充実させることにより、検索での流入が増えたことに加え、外部から参照リンクを貼られたことなどが影響していると考えられます。年に1回のレポートだけではなく、その他のコンテンツを充実させることで、オンライン上の存在感が大きくなったことが原因でしょう。

スーツケースのように、たまにしか買わないけれど、ルールや制限などが複雑な商材の場合、生活者は購入前に情報収集をします。よって、こうしたコンテンツマーケティングがマッチする分野であるといえます。

お知らせ
深谷歩事務所では、企業のコンテンツマーケティング支援として、サイト構築(技術支援)、コンテンツ企画、編集/リライト、ライティング、取材、評価検証などを承っております。ご興味のある方は、お問い合わせからご連絡ください。

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