G+であらわになる本物の孤独

サークルの意味がわからない、とユカは言った。

彼女がTwitter失恋をした後も私たちはたびたび飲みに行っていた。彼女の黒く長い髪は首を傾げるたびにさらさらとゆれ、私は触れてみたい誘惑にかられる。

「あー、Google plusのサークルのこと?」

みとれていたのをごまかすように私は言って、ビールのジョッキを持ち上げた。

「うーーん、Twitterのフォローと、Facebookの友達とどう違うのか、いまいちわからないんですよ。追加するときに、最初に人を分類してって言われるでしょ。私、そこでその人との関係を考えちゃうの。そうすると、その人はその人であって、何かにカテゴライズできるものではないって思っちゃう。結局、追加できない。そして、その後何が起こるのかもいまいちわからない。」

ユカは考え事をするときに斜め上を見る。その時顔が無防備になる。かわいいなぁと思いながら、無粋にも私はGoogle plusを説明することにする。

サークルとは何か

「現実の人間関係だと、会う人ごとに話す内容も違うし、情報の伝え方も変わるでしょう。Google Plusのサークルは、そういう実際の人間関係をネット上にもつくることを目指したんだ。

会社関係の人と話す内容、趣味の仲間と話す内容、家族と話す内容はそれぞれ異なる。でも、Facebookだと、それは全部『友達』というつながりになって、皆に同じ情報を共有することになってしまう。

言ってしまえば、五ヶ国語話せる人がいたとして、その人がいろんな国の人とFacebookで友達となってるのに、結局一番普遍的な英語だけを使って話しているようなもの。この言葉であの人達に伝えたい、と思ってもめんどくさいからそのまま英語で伝えてしまうんだ。」

Facebookのリスト/グループと似ている?

えー、とユカが反論する。

「でもFacebookには、リスト機能があるじゃないですか。その人は『タガログ語』っていうリスト使って、タガログ語で投稿すればいいんじゃないのかな。」

Facebookのリスト機能を使うと、「友達の編集」からリストを作成して、友達となっているユーザーを分類できる。ユカが意外とマイナーな機能を知っていたことに驚きつつ、私は尋ねた。

「ユカはその機能、使っている?」

エヘヘ、と笑って「使わないねー」とユカは言う。

「あ、でもグループは使ってますよ。社外の人の含んだプロジェクトでのやり取りで使ってます。Facebook関連のプロジェクトだから、みんなしょっちゅうログインしているので、レスポンスも早いし、メールよりも便利です。サークルってそれに近くないですか?」

Facebookのグループは特定のメンバーをグループ化してやり取りができる。公開範囲も選択でき、仕事にも使えることで利便性が高い。

サークルの追加は承認の必要がいらない

しかし、サークルは、Twitter、あるいはFacebookのリストやグループとは異なる情報の流れをする。ちょっとややこしいけど、と断ってから私は説明をしてみる。

「まず、サークルの場合、一方的に誰かを追加することができる。Facebookのリストまたはグループに登録できるユーザーはあらかじめ友達になっているユーザーに限られるよね。

そして、もう一つの違いとして、自分が情報を共有する相手としてサークルを選べるが、相手が自分をサークルに入れていない場合、自分が共有した情報を見てくれるとは限らない。

つまり、自分が情報を送信する相手を限定するのは簡単だけど、相手が自分のことを大事な相手だと思っていない場合は、その情報を見る機会は圧倒的に減るんだ。」

言葉を選びながら、私は説明を続ける。

「サークルは必ずしも双方向の情報共有ではないんだ。自分が相手を『親友』というサークルに入れたからといって、相手も『親友』というサークルに入れてくれるとは限らない。そもそも、サークルに入れないかもしれない。それでも、本人のサークルは成り立ってしまう。」

ユカは、えっ!と言った。

「あ、私『サークルに追加されました』、っていう通知がきても今まで全部放置してた。だから相手も追加できていないのかと思ってたんですけど。」

ユカの疑問はさらに深まる。

「ということは・・・。私のこと、サークルに追加している人には、もしかして、私のひとり言は表示されているんですか?Twitterでフォローされている時のように」

Google plusでは、投稿を共有するときに必ず通知先を選択するようになっている。そこで「一般公開」を選択した場合は、自分を追加しているユーザーのサークル内のストリームとして表示されることになる。

もし、ユカがユーザーが誰もいないサークルを選択して共有していれば、それは誰のサークルにも表示されない。

説明をすると、ユカはうなずきつつも納得がいかないような顔をしている。

自分が伝えたい人を選べるだけ

「じゃあ、同僚が私のことを『会社』というサークルに追加していたとして、その人が明日の会議室の場所をそのサークルに向けて共有したとします。私は、それが見えるのでしょうか。」

「そういうのは、『サークル外から』というメニューを表示すると、見えるよ。ユカはサークルに追加していないけれど、相手だけが追加している時、その相手がユカが入っているサークルに向けて発言したとするよね。そういうのは、みんな『サークル外から』になる。」

えー、そんなの滅多にチェックしないよ、とユカはつぶやいてから、続けた。

「じゃあ、『共有』なんていうのは言葉ばかりで、相手は聞いてくれてないかもしれないじゃないですか。だって、自分が伝えたい人を勝手に選んで、相手のことをおかまいなしに言いたいことだけを言っているだけのように思えますよ。」

「そうだね。Google plusはビジネスに向いているという人もいるけれど、相手も必ず自分をサークルに追加してくれないと、情報の共有はできないよね。プロジェクトで使おうと思った場合は、プロジェクトメンバー全員が、そのプロジェクトに関わる人全員をサークルに追加しないといけなくなる。こういう場合は往々にして、アクションを起こさない人がいたり、追加漏れがあったり、っていうことがあるのが世の常だよね。」

ユカは壁をじっと見つめて考え込んでいる。と思ったら、急に店員を呼んでイワガキを注文する。注文が終わると、また真剣な顔をして言った。

「そもそも、何のサークルに追加されたかわからないというところが、使いづらいですよね。○○プロジェクトに追加されました、って言われたら、自分も追加しないと、と思うけれど、何に追加されたかよくわからなかったら追加しづらいですよ。」

私は少し声を落として同意する。

「そこがGoogleがいうところの『現実に近いソーシャル関係』なんだ。自分が友達だと思っていても、相手には元同僚としか思われていなかったり、自分が恋人だと思っていたのに、相手にはストーカーだと思われていたり。」

本物の孤独

かつて、Twitterのボットを本当の人間として勘違いして恋をしてしまったことのあるユカは、悲しそうな顔をした。

「・・・ネットの世界でも、一人ぼっちの人は、一人ぼっちになってしまうんでしょうね。年賀状を100枚書いたのに、お正月にポストを開けてみたら空っぽだった・・・みたいな。

『友達』に向けて、おはよう、って言っても誰からも返事が来ない。『飲み仲間』っていうサークルを作っても、誰も自分をサークルに入れなければ、そこを流れるストリームは、自分が飲み会に誘う声だけ。

しかも、自分がサークルに追加した人だって、その人が自分を含めたサークルで何かを共有するか、一般公開で共有してくれない限り、私には見えないんですよね。Twitterのフォロワーなら、あこがれの人を勝手にフォローしてツイートを見ることができるし、訳があってフォローはできない人でもその人のページを直接アクセスすればツイートがわかります。

現実と同じようでいて、現実よりさみしいですよ。飲み会とかで、自分の隣から右側、隣から左側、正面の人はその人の左右隣の人たちと、それぞれ盛り上がっていて、自分がどこにも入れないことってありませんか?話しかけるんだけど、喧騒に巻き込まれて聞こえないから誰も私の方を向かない。皆がしゃべっていることも、途切れ途切れで意味がわからない。現実なら、その1時間を我慢すればいいけど、ネット上でそれが形になってしまったら、私、本物の孤独を味わうことになると思う。

だから私は誰かをサークルに追加することが異様に怖いのかもしれません。お前には誰も話しかけないし、誰もお前の声を聞かないぞって言われそうで。」

私は、あなたのことを「ユカ」っていうサークルに入れているよ、そう言いかけた時、店員がイワガキを運んできた。

「わーー、すごい、大きいですね!こんなに大きいとは思わなかった!私、牡蠣大好きなんです。レモンかけますね!」

かわいいなぁと、レモンを真剣にしぼるユカの顔を微笑ましく私は見守る。

この記事は実話を基に関係者へのインタビュー、および独自取材により構成したものです。特記がないかぎり、登場する人物・団体の名称は仮名を使用しています。

取材にご協力いただいた皆さま方、ご協力に深く感謝します。
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