売上にソーシャルメディアの影響なしは本当か?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Forrester Reaserch社が2011年3月に発表したオンライン消費行動についての調査レポート「The Purchase Path of Online Buyers」が興味深い(レポートのダウンロードはここからできる。ただしユーザー情報の入力が必要。Scribd.comなどファイル共有サイトでも見つけられる)。

このレポートを一見すると、ソーシャルメディアは人々のオンライン上の消費行動に影響を及ぼしていないように見える。実際にMashableの記事でも、ソーシャルメディアの影響は従来のメールなどの方法に劣るという切り口でレポートを紹介している。

Forrester Reaserch社は米国の独立系アナリスト会社であり、IT系調査レポートは信頼があり、影響力も強い。よって、ソーシャルメディアをビジネスに利用しようと考えている人にとっては、これはショッキングなデータだ。

しかし、この調査データには、アメリカの文化など特殊な背景を考慮してみると、人の購買行動に関する異なる側面がみえてくる。

今回はForresterの調査データを元にオンラインの消費行動に影響する心理と効果的なマーケティング手法について考えたい。

Forresterレポートの調査概要

Forresterのレポートの調査概要は、以下のとおりである。

調査対象と内容

大手eコマースプロバイダーのGSI Commerceを利用する15の販売会社のホリデーシーズンの販売実績データ。
一部、Thanksgivingの週末から Cyber Mondayについては、Bizrate Insightsの販売ネットワークの利用者からの調査データを利用。

このデータから販売に結びついたユーザーが購入の最終決定までに利用した導線(メール、検索、直リンクなど)を調査する。

なお、調査では、アパレルやアクセサリーを扱う5つの販売店を「ソフト」、スポーツ用品、おもちゃ/ゲーム、健康・美容用品を扱う15の販売店を「ハード」として分類している(一般的にハード、ソフトの分類は、商品の耐久性などを考慮して分類される)。

調査期間

2010年11月12日〜12月20日。
Thanksgivingの週末は2010年11月25日〜28日までとする。
Cyber Mondayは2010年11月29日とする。

補足:アメリカの文化

補足的に、アメリカの年末のショッピング事情を簡単に紹介する。この事情への理解がこのレポートを読む上では欠かせない。

ホリデーシーズン:
Thanksgiving Dayから年明けごろまでの時期。多くの人が休暇をとったり、家族、友達、恋人、同僚間でプレゼントを贈りあったりする季節。

Thanksgiving Day:
11月の第四木曜日で祝日となっている。家族が集まってターキーなど特別な料理を食べる日となっている。多くの販売店、飲食店はこの日は店を開けない。

Black Friday:
Thanksgiving Dayの翌日の金曜日のこと。金曜から日曜まで一斉に特別セールを開催する。この日を堺に多くの販売店では黒字に転換することからBlack Fridayと呼ばれる。

Cyber Monday:
Black Fridayの翌週の月曜日は、多くのオンラインショップが特別セールを開催する。2005年ごろからの風潮。

よって、このレポートが対象にしているのは、通常の平均的なオンライン消費行動ではなく、セールやプレゼントの機会が多くなる特別な期間の消費行動である。

販売前の情報チェック:半数が複数の導線を利用

以下の図は、購入者が利用した導線を分析した結果である。単一の導線だけで購入を決定した人、複数の導線だけで購入を決定した人は、ハードとソフトで割合が異なるが、ほぼ半数であったということだ。

さらに、単一の導線を利用した購入者が利用した導線、複数の導線を利用した購入者が利用した導線をランキングにしている。複数の場合は最初にアクセスした導線を表示している。

なお、このデータはThanksgiving の週末とCyber Mondayの販売実績は含まれないということに注意したい。

このデータから以下のような傾向が読み取れる。

単一の導線の利用者の傾向

単一の導線で購入まで至った人は、最初から購入する対象が決まっていた人である可能性が高い。特におもちゃや健康・美容用品が含まれるハードでは、直リンクあるいは検索で訪れて購入に至っているケースが多い。これは家族や友達など特定の相手へのプレゼントであることがうかがえ、あらかじめ商品を決めてアクセスしたことが多かったと考えられる。

複数の導線の利用者の傾向

複数の導線で購入まで至った人とは、最初から特定の商品に強い購入意思があったわけではないが、情報収集の結果最終的に購入した人である。

23%のソフトの購入者にとって最初のきっかけになったのが、販売店からのメールだ。メールによる商品案内は、開封率やクリック率の平均は3−5%程度と言われることが多い。例えば、商品情報とは少し異なるが、私が以前関わっていたオンラインメディアのメールマガジン(特に広告用の特別な配信メール)の開封率も、約5%であった。

一部では、メールによる案内は古い手法とみなされてもいるが、この調査結果からは購入決定に至るプロセスのきっかけとして存在感を見せつけている。

また、単一の導線を利用した購入者にとって、オンライン広告の影響がほとんどないのに対し、特にソフト商品を購入するために複数のマーケティングチャンネルを利用した人には、オンライン広告も情報のアクセスのきっかけになっていることにも注目したい。

メールもオンライン広告もプッシュ/アウトバウンド型のマーケティングであるが、購入意思が強く固まっていない人に向けては、効果があることがわかる。

プレゼント購入ではソーシャルメディアは役立たない

再度強調するが、このデータには、セールが最も盛んになるThanksgivingの週末とサイバーマンデーが除外されていることに注目したい。よって、ここでの購入の多くがプレゼント目的であったと想定できる。特におもちゃや美容用品などが含まれるハードはその傾向が強いだろう。

一般に人はプレゼントはセール品を選ばない傾向が強く、また相手の希望を優先する。送り相手のAmazonのウイッシュリストを参考にすることはあっても、別の友だちのリコメンドは、プレゼントの選択において相対的に価値が低くなる。よってソーシャルメディアは導線にはなりにくく、購入の意思決定のステップでは影響力がないのも納得できる結果だ。

Cyber Mondayのセール情報はソーシャルメディアで共有される

以下の図では、Cyber Mondayにオンラインで買い物をした人がどこで情報を知ったかということを示した図である。

販売店からのメールでセール情報を知り、実際に購入に結びついた人が多いことがわかる。よって、こうした特別なセール情報の通知においては、メールが最も効果的であるといえる。この時期は国内で一斉にセールが行われることが分かっているので、セールを狙っている消費者が普段よりもメールの内容をチェックしていることがうかがえる。

また、販売店によるFacebookなどのソーシャルメディアを介して発した情報も7%の購入者に届いていることがわかる。これはFacebookページで「いいね!」をクリックしているユーザーに向けた特別クーポンの発行、Twitterでのセール情報の告知などがあたるだろう。

さらに、図には出ていないが、Forresterの調査では、Cyber Mondayに買い物をした人の23%がその情報をソーシャルメディア上で友達と共有していることがわかっている。これは約4人に1人が情報をソーシャルメディアを使って共有したということであり、その結果として、4%のユーザーがセール情報を知ったということである。

プレゼントとセール品の決定的な違い

ここで、プレゼントとセール品の決定的な違いとして、購入者の選択権の強弱がある。

プレゼントの場合は、あらかじめ相手に欲しい物を聞くなど、相手の欲しい物が優先されるため、購入者の商品の選択権は弱い。

送り相手の好みが優先されるため、購入者がその商品を販売するメーカーのFacebookページのファンになっている可能性やTwitterをフォローしている可能性も低くなり、ソーシャルメディアが導線になることは少ない。

つまり、ソーシャルメディアの購入ステップでの影響は1%というデータの背景には、プレゼントの購入という特殊な事情が含まれていることに注意したい。

一方、セール品は自分用に購入する場合が多く、購入するかどうかの選択が価格の影響を受けやすくなる。

私の友人にアメリカ人のカップルがいる。クリスマス近くに二人の家に遊びに行ったとき、以前来たときにはなかった筋力トレーニングのためのマシンがあった。彼女に聞くと、「彼氏がサイバーマンデーで衝動買いした!部屋の雰囲気をみだしてかっこ悪くていやだわ!」と言っていたことを思い出す。

購入者に選択権があり価格の影響を受けやすい条件にある場合は、販売店からのメールや販売サイト、広告の情報がきっかけになって購入に結びつくことが多い。こうした場面において、ソーシャルメディアを使ったキャンペーンなどは今後期待できる。

まとめ:コンバージョンレートには現れない価値

オンラインの広告や販売などは、消費者の行動を数値として追いやすい。ユーザーのアクセスが実際の販売に結びついたのかどうかを表すコンバージョンレート(アクセスしてきたユーザー数に対する販売実績数の割合)などは、企業が効果測定をする上で必ずチェックするべき数値として扱われている。確かに、Webサイトの構成や導線によってコンバージョンレートは大きく変化するため、サイト構築をする上では注意するべき値だ。

今回の調査データでは、ソーシャルメディアの影響が1%ということが話題になったが、実は背景の事情を考慮すれば、納得できる値である。

なお、ホリデーシーズンのハード分野(おもちゃや美容用品など)での商品購入にいたるまでの導線が一つである人の22%が直リンクで販売サイトを訪れている。プレゼント目的の購入者が多かったことが推測できるが、消費者の中に「ブランドの認知」がされていることが直リンクにつながったのではないかと考えられる。

また、セール情報を知ったきっかけとして「メール」を挙げている人が51%に対し、サイトを直接訪問した人も45%となっている。これも「ブランドの認知」が影響しているのではないか。

つまり、直接の購買行動のきっかけになるのは、メールや広告などプッシュ型のマーケティングが強力であるが、消費者がプッシュ型のマーケティングを受け入れるのは、少なからずブランドの認知度が関係するという仮説がたてられる。

ソーシャルメディアと売上の相関については、また後日異なるデータを用いて検証してみたい。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。