フォロワー1万人のSさんの憂鬱


「Twitterのフォロワー数を1万人、Facebookの友達を2,000人まで増やしたのですが、何の効果も感じられないのですよね。ソーシャルメディアはやはり中小企業でやっても意味がないのでしょうか。」

先日、ある企業の担当者の方から、こんな問い合わせを受けた。

「ソーシャルメディアは、フォロワー数など定量的に見える数字を求めても意味はないのですよ。一緒に戦略を考えなおして、やりなおしてみませんか?」

私は直接、その方、 ーここではSさんと呼ぼうー に会って、その悩みを聞いてみることにした。

一番重要なものは数字には現れない

そもそも、企業でソーシャルメディアを利用するのは、何のためか。最終的なゴールはそれぞれ違うだろうが、その過程においては、多かれ少なかれユーザーとのコミュニケーションを増やし、エンゲージメントを高めたい、ということがあるはずだ。

しかし、コミュニケーションもエンゲージメントも、簡単には数字ではかれない。

聞けば、Sさんはソーシャルメディアを始める前に、コンサルタントに指示を受けたことがあるという。

「Twitterでの影響力を増やすには、とにかくフォロワーを増やすことですよ。そして1日に10個くらい情報を発信していけばいい。ネタがなければボットを使うのもいいですよ。いくつかツイートを用意してもらえば、こちらで設定しておきます。Facebookでは、まず自分の個人アカウントの友達の数を1,000人を目指して増やしてください。多いと思うかもしれませんが、私の友達を紹介しますので、簡単です。その人達がFacebookページのファンにもなってくれますから、自然と盛り上がりますよ。Facebookページのコンテンツは、Twitterと連携できますから、それで大丈夫です。数値目標をたてて、そこに向けてやっていけばいいですよ。こういうのは、効率的にやらないとだめですから。」

そのコンサルタントは、そう言ったという。Sさんは、具体的な数値に安心し、またその人の説得力ある話し方にひかれ、言うとおりにソーシャルメディアの公式アカウントを設置した。

しかし、数ヶ月運用してみて気づいたことは、誰も自分のツイートに注意を払わず、Facebookページにもフィードバックを返さないということだった。ほとんどの投稿はボットなので作業工数はかかっていない。しかし、自分の言葉は虚しくソーシャルメディアの中を浮遊して、すぐに消えていくだけだった。

自分の言葉で話そう

そんなコンサルをしている人がいることに驚きつつも、ソーシャルメディアについて改めて説明することにした。

「発信力とフォロワーの数は、比例するわけではないのですよ。確かに、芸能人など多くのフォロワーを持っている人たちの影響力は強いです。でも、1万人のフォロワーがいるのに誰もツイートを見てくれない場合と、10人のフォロワーがいて10人全員がツイートを見てくれる場合だったら、後者のほうが影響力があるといえます。少なくとも、相手に届いているわけですから。

それから、ボットですが、あれの使いどころはとても特殊です。もちろん、人気のボットもありますが、それは一般的な企業のアカウントの運用とは違います。企業アカウントでボットを使っているところは、正直印象悪いですよ。」

Sさんは、うなだれた。

「私はむしろ嫌われたのでしょうか。」
「これからは、自分の言葉で、本当に伝えたいことをその時々で考えてツイートするようにすればいいと思いますよ。現在のアカウントを消して新しくやり直してもいいし、現状のものをそのまま使ってもいいと思います。ただ、使い方を変える必要があります。

Sさんの会社が販売しているものは、誰もが使うものではありませんが、特定の利用者がいます。その商品に関係の無い人をフォロワーにしたって意味がないです。逆に使っている人はもっと情報がほしいと思っているでしょうから、そういう人に向けた専門的な情報発信にしたほうがいいですよ。

あと、FacebookページとTwitterを連携させているということは、ボットの発言がそのまま流れているということですよね。Sさんは人の手が一切入っていない発言をわざわざ見に行きますか?」

「見ませんね、まったく見ません。興味すら持たいないですよね。」

Sさんは、腕を組みうつむいて考えている。

「でも、うちの会社は何を発信したらいいんでしょうか。」

みんなに喜ばれるものを作ろう

「自分だったらどういう情報が得られればうれしいかということを考えてみてください。Sさんの会社は専門企業として様々な情報を日々収集しておられるでしょうし、実績や経験も豊富です。最新動向や有用なデータなどの情報を伝えていけば、役に立つなと思った人がフォローしてくれるようになりますよ。」

Sさんはメモを取り始めた。

「それはTwitterの場合ですよね?Facebookはどんなことをやればいいのでしょう?」
「FacebookはTwitterよりも詳細な情報やまとまった情報を発信できるという特性があるので、いくつかコンテンツのパターンを考えて定期的に発信してみたらどうでしょう?」

私とSさんは、Sさんの会社の事業内容やすでに持っているコンテンツ(プレゼンの資料や専門雑誌に投稿した記事、商品の利用方法の説明、写真など)から、再利用すれば定期的に発信できるものを整理していった。

「Twitterは、業界の最新動向や実験データ、それに季節にあわせた商品の利用方法や扱い方の注意などを簡潔にまとめてツイートしましょう。Facebookでは自社で作ったオリジナルコンテンツを発信していきましょう。役に立つな!と思う人が増えれば、ユーザーがFacebookやTwitterでシェアしていくので、どんどん広まります。そういう人たちにページの「いいね!」をクリックしてもらえば、定期的に見に来てくれるし、コメントなども盛り上がっていきますよ。

まずは、見に来てくれた人を満足させることを一番に考えて、出し惜しみしない情報発信をしましょう。きっと、ユーザーはそれを広めてくれるし、Sさんの会社に興味を持ちますよ。」

ユーザーの反応を見よう

私はふと気になって聞いてみた。

「これまで、ツイートしたときの反応はチェックしていましたか?」
「反応がないので、たまにしか見ていませんでしたね。まれにRTされたり、コメントが来たりしたこともありましたが。」
「そうですか。情報を定期的に発信するようになったら、ユーザーの反応がポジティブなのか、ネガティブなのかを分析しながら、次のコンテンツを用意していくといいですね。反応が少ないということは需要が少ないということです。でも、少数でも強烈に支持してくれている人がいるのなら続けたほうがいいかもしれません。

明らかにネガティブなことを言ってくる人もいるかもしれませんが、そういう時は、どうしてそういう発言になったのか、その人の立場にたって考えて、返答するようにしましょう。」

「そうですね、このあたりは実際に反応があってからでないとわからないかもしれませんが、きちんとチェックするようにします。

なんだか、今までソーシャルメディアを軽く考えていたようです。私一人では無理そうなので、社内のほかの人間にも手伝ってもらってやるようにしていきますよ。」

Sさんは何人かの名前を手帳に書きとめた。

デジタルの裏側にある本物の人の声

「実は、私自身、今回の震災のときにTwitterでかなり情報を集めたのですよ。地震の研究家の方とか原子力が専門の先生とか、公共放送のPRの方とか、いろんな人のツイートをチェックしてみました。

そういう人たちのツイートって、役立つだけでなく、中の人の感情も聞こえるというか、実際に生きている人の体温を感じるのですよね。自分のツイートとは違うなと思いましたが、それは特別な人達だからだと言い聞かせていましたよ。

ユーザーが満足してくれるかは、実際にやってみないとわかりませんが、すこしずつでいいので、自分たちの声を届ける努力をしていきますよ。」

あれからもう少しで1ヶ月になる。Sさんのツイートには、フォロワーからの質問やコメントがつくようになった。Sさんは一生懸命それに回答している。FacebookページのほうもSさんの投稿に「いいね!」やコメントがつくようになってきた。提案した内容が正解かどうかはもっと長い目で見なければわからない。でも、ユーザーと本物のコミュニケーションをはじめたSさんのソーシャルメディア活用は正しい方向に向いているはずだ。

この記事は実話を基に関係者の承諾のもと作成したものです。特記がないかぎり、登場する人物・団体の名称は仮名を使用しています。

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