効率化とユーザー満足度は反比例する

ソーシャルメディアの企業利用が進んでいる。ソーシャルメディアは、ユーザーとのダイレクトなコミュニケーションが可能であるが、実際上手にコミュニケーションが取れているという自信のある企業はどれくらいあるだろうか。

今回は、企業とユーザーとのコミュニケーションを考えるにあたって、商品あるいはサービス購入前後のユーザーエクスペリエンスとユーザーの満足度について、考えてみたい。

さらに、その上でユーザーの満足度をあげるための努力をFacebookのウォールを使って実現している企業の事例を3つ取り上げてみたい。

ユーザビリティとユーザーエクスペリエンス

先日、ユーザビリティとユーザーエクスペリエンスの専門家である黒須正明氏の講演を聴く機会があった。その中でいくつか、ソーシャルメディアを介したユーザーエクスペリエンスを考える上で、参考になる点があった。黒須氏の話を踏まえて、私の視点からユーザビリティとユーザーエクスペリエンスについて、整理してみたい。

なお、ユーザーエクスペリエンスの正確な定義については、ISO 9241-210などを参照してほしい。

ユーザーエクスペリエンスとは

ユーザーエクスペリエンスとは、ユーザーの商品、サービス、システムなどの使用の感覚、感情、好み、物理的/心理的反応、達成など、さまざまなユーザーの体験を指す。これは利用中、利用後だけではなく、利用前も含まれる。使い勝手などを指すユーザビリティはユーザーエクスペリエンスの一部として考えられる。

これまでの広告やマーケティングでは、主に購入前の状態にある見込客、消費者に対してのアプローチに焦点をあててきたといえる。

また購入後や使用後のユーザーの意識調査は行われてきたが、これは比較的短期の評価であり、ユーザビリティの評価に近い。一方、半年、1年といった長期的な利用(短期的にしか使用できないものは、同一商品のリピート)における評価については、見落とされがちであった。

ソーシャルメディアは、これまでよりも長い視点で購入前、購入後のユーザーに対してアプローチするのに適している。しかも、単に売るためのサポートではなく、ユーザーがよりよいエクスペリエンスを得るためのサポートをすることができるのではないか。

ユーザーの満足度とは

ユーザーエクスペリエンスを経て、ユーザーは一定の満足度を得る。満足度は大きく分けると、実用的な視点からの満足度(使い勝手、機能性、品質)と、感覚的な視点からの満足度(好み、喜び)などからなる。

満足度を考えるにあたって、究極の質問というものがある。それは「あなたは、その商品を人に勧めますか?」というものだ。

これに対してポジティブに「はい」と答える人が多くなればなるほど、その商品の売上は上がっていき、「いいえ」と答える人が多くなるほど、売上は上がらなくなると言われている。

このことから、ユーザーの満足度は、企業にとっては極めて重要な指標であるといえる。

ソーシャルメディアがカバーできるのは、感覚的な視点からの満足度だ。なぜなら、ソーシャルメディアによるコミュニケーション、それによって実現されるユーザーとのエンゲージメントは、主に感情の交換であるからだ。

では、実際にソーシャルメディアを介したユーザーのエクスペリエンスをポジティブなものにし、満足度を高めている企業の事例を紹介しよう。なお、今回は、Facebookページのウォールの利用方法を取り上げる。3つとも、異なるコミュニケーション方法をとっているが、どれも満足度の向上に成功していると考える。

Joie de Vivre Hotels

Joie de Vivre Hotelsはカリフォルニアを拠点に複数のホテルやレストランを運営している。同社は顧客に対する徹底したホスピタリティで有名だ。

同社のFacebookページのウォールもホスピタリティにあふれている。質問をした人、クレームを付けている人、予約をしたい人など、様々な問い合わせや意見に対して、丁寧に回答をしている。文体は比較的カジュアルであるが、丁寧で親切だ。利用者への気遣いがこめられているのだ。

例えば、「近い将来にGaige House(同社が提供するホテルの一つ)のChip’s picks(同社が提供する割引サービス)での特別割引はありますか?30周年をGaige Houseで祝いたいんだ」というコメントには「Chip’s picksは発表されるまでどこが対象になるのかはわかりません。Gaige Houseが対象になるかもしれないのですが保証はできません。あなたの幸運を祈ります、そして30周年おめでとうございます!すばらしい節目ですね。」と返している。ばっさりと、事前に割引対象はお知らせできません、とだけ返したのでは、ユーザーはがっかりする。しかし、幸運を祈られて、おめでとうと言われて、節目だと言われたら、私は割引がなくてもパーティはここでやろうと思う。

なお、同社のWebサイトでは特別割引プランなどを提供しているがそのサービスの案内や、Twitterでの特別割引の案内などもFacebook上で行っている。単純に各種サービスを連携させてしまうのではなく、それぞれのサービス特性をいかして、使い分けて情報を発信しているところは参考にしたい。

また、傘下の各ホテルもそれぞれFacebookページを用意している。ページアカウントを利用して、傘下のホテルとJoie de Vivre Hotelsがウォールで相互に書き込みをするといった活用方法も行っている。

Seattle’s Best Coffee

Seattle’s Best Coffeeはシアトルを拠点にグローバル展開するコーヒチェーン店である。

同社のFacebookページも、気軽に入って時間つぶしができる店舗と同じような雰囲気だ。ページアカウントは、ユーザーに対してよく問いかけをする。

例えば「今日はNational Goof-Off Day(のんびりする日)!休んじゃおうよ!みんなは何をしたい?」という問いかけには、みんなが過ごし方をコメントしている。

「春で好きなところは _______」という投稿には、みんなが _______の部分を埋めるコメントを寄せている。ページアカウントがリーダーのような形でテーマを与え、みんなでわいわい話をしている雰囲気だ。

Seattle’s Best Coffeeは、基本的にみんなの投稿に対して毎回コメントしているわけではないが、コメントの内容は逐次チェックしているようだ。なぜなら、時としてコメントの中に質問が入るのだが、そういう場合は、タイムリーにきちんとその人にあてたコメント返しをしているからだ。

こうしたカジュアルな雰囲気のコミュニケーションは、日本ではなかなか難しいかもしれないが、盛り上がればFacebookページが店舗の続きのような空間になりそうだ。

もちろん、商品の入れ替えやクーポンなどについてのユーザーからの質問や意見についてもきちんと回答している。

Allrecipes.com

Allrecipes.comは、ユーザーがレシピを投稿するクッキングサイトだ。Cookpadのアメリカ版のようなイメージだ。

AllrecipesのFacebookページのウォールでは、Webサイトのレシピをピックアップして紹介したり、サイト内の特別記事やYouTubeコンテンツの紹介をしている。

Allrecipesでは、投稿によってはTwitterクライアントのHootSuiteを使っておすすめレシピを投稿している。ということは、Twitterと投稿内容が同じなのかと思って、チェックしてみたところ、Twitterでもおすすめレシピをツイートしているが、それは別のメニューだった。TwitterとFacebookページの投稿を連携させるのではなく、それぞれ別のおすすめを投稿しているということだ。

基本的に自分が投稿した内容に対するユーザーからのコメントには対応していないが、ユーザーからの新規投稿で、「ポークローストを作ったんだけど味付けは何がいいかな?」というようなちょっとした質問には、具体的なレシピのリンクをはってアドバイスしている。しかも、そのコメントの中でWebサイト内の相談コーナーへの投稿もうながしており、あくまでメインのWebサイトへのアクセス流入をはかっている。レシピのアドバイスをせずに「相談コーナーで聞いてみて!」と答えられたら、ユーザーは場違いなことを聞いたようなきまずい気になりそうだが、具体的なアドバイスをもらった上で、相談コーナーを紹介されると、ユーザーは素直に今度はそっちで聞いてみよう、と思うだろう。

Webサイトなどは、自サイトでいくらでも情報発信ができるため、Facebookページをどう活用するかというのはよく考えなければいけない。Allrecipesは、その時々(イベントや季節など)にマッチしたレシピをセレクトすることで、プッシュ型の情報配信をFacebook上で行い、その上でユーザーエクスペリエンスを高めるための案内を行なっている。

まとめ:その一手間が長期的な満足度につながる

さて、上記の3つの事例に共通することは何だろうか。それは、ユーザーからのコメントは丁寧にチェックし、手間を惜しまないで情報提供をしていることである。そして、WebサイトやTwitterの情報ともかぶらないよう情報を発信し、それでいて連携させることも忘れていない。

ユーザーもFacebookページでのコミュニケーションを楽しんでいる。こうしたFacebookページでのポジティブなエクスペリエンスは、結果として、その企業を好きになることにつながるし、その商品やサービスに対する愛着もわく。いいかえれば、感覚的な満足度が高まるのだ。

日本でもFacebookページを運営している企業が増えてきたが、ユーザーへのコメント返しが上手にいっているところはまだ少ないように思える。せっかく、アイデアや改善案を投稿してくれているのに、何の反応も返していないという例もある。上記で紹介している3つのFacebookページであれば、ユーザーからの具体的なアイデアや意見が投稿されれば、必ず何らかの反応を返しているはずだ。

Twitterと連携させると二度ポストする手間が省けて楽だ、という理由でそのままTwitterのツイートを載せているところもある。確かに効率的であるが、TwitterとFacebookは基本的にサービスの種類が異なるので、連携させてしまうと、やっつけ仕事でFacebookページを運営しているように見える。そもそも、同じことを二度ポストするのではなく、TwitterはTwitter、FacebookはFacebookでできることをするべきなのだ。

作業を担当している人にとっては、効率化は大事かもしれないが、効率化を優先させてソーシャルメディアを運用したところで、ユーザーとのエンゲージメントも、ユーザーの満足度も何も生まれない。むしろマイナスだ。

ソーシャルメディアを使って、ユーザーに長期的な満足を感じてもらうようなエクスペリエンスを提供するには、手間を惜しまずユーザーが興味を持つ情報を配信し、ユーザーのコメントを聞き、彼らが求めるベストな解を提供する必要がある。

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