ストーリーテリングとマーケティング

商品の値段というものは不思議だ。タグに記載された値段を高いと思うのか、安いと思うのか、妥当だと思うのか。その基準は、経験や他の商品との相対、必要性や期待値、稀少価値度などを勘案して考えられる。さらにその商品が古物であった場合、さらにその値段の判断基準は不明瞭となる。

家に伝わるお宝を鑑定するというテレビの長寿番組がある。出品する人は、みなお宝と一緒にその物にまつわるストーリーを語る。たとえ、それが鑑定の結果、思ったよりも金銭的に価値のないものであっても、本人、あるいはその対象物とストーリーに惹かれた人にとっての価値は損なわれないはずだ。

マーケティングの考え方の中に、商品をアピールするためのストーリーテリングという手法がある。その商品にまつわる特別なストーリーを加えることによって、商品そものを魅力的に見せる。ストーリーは、商品そのものの仕様を説明し続けるよりも、ずっと情感に訴える場合がある。

この仮説を実験として立証しているのが、Significant Objects Projectである。今回は、Significant Objects Projectが行っている実験、その結果について考えてみたい。

Significant Objects Projectの実験

Significant Objects Projectでは、アメリカのオークションサイトeBayでジャンク品とストーリーをセットにして出品するという実験を数回にわたって行った。第1回目の内容を具体的に説明しよう。

最初に、中古品やジャンク品を扱う店やガレッジセールなどで、数ドルの品物を買い集める。無料で手に入れた物も含まれる。

続いて協力してもらうライターを集め、品物を選んでもらい、その品物にそったフィクションのストーリーを用意してもらう。ストーリーのタイプ、流れ、書き方、人称などは自由。そして、ストーリーが付けられた数ドルの品物は「特別な物」に変わる。

「特別な物」となった品物は、オンラインオークションサイトのeBayに出品される。商品の説明として、その商品の写真とライターによって創作されたストーリーを載せる。なお、ここでそのストーリーはライターによる創作であることは明示的に説明されている。つまり、購入者はそのストーリーが本物ではないと知った上で、入札するかどうかを判断するのだ。

落札者には、商品と印刷されたストーリーが送付される。入札で得られたお金はライターに渡される。また著作物の権利もライターにある。

最終的に、eBayに掲載した写真、ストーリー、購入価格、落札価格は、Significant Objects ProjectのWebサイトに載せられる。

Significant Objects Projectの結果

2009年6月から11月にわたって行われた第1回目実験では、合計128ドル74セントで購入した商品を3,612ドル51セントで売り上げた。全体では仕入れ価格の28倍で売れたということになる。

例えば、ピンクの馬の置物は、元の価格は1ドル、最終的な売値は104ドル50セントとなった。つまりストーリーによって実に100倍以上の価格がついたことになる。

なお、第1回目の実験では、売上額はライターにわたったが、2回目以降は、10代にライティングを教える団体や困難な状況にある10代の女性の精神的ケアをする団体などに売上を寄付している。また、プロジェクトでは、ストーリーをまとめた本の出版などを行っている。

Significant Objects Projectでは、この結果を踏まえて「物語はただの物を特別な物に変える(Narrative transforms insignificant objects into significant ones.)という仮説は100%正しい」と述べている。

ストーリーがなぜ価値を生むのか

なぜ、ストーリーが付加されることによって物の価値が上がるのであろうか。

その答えは、物語がただの物体と人間との間に特別な関係を作り出すことにある。生み出されたストーリーを好きになり、物を好きになり、それが結果として欲しいという感情を引き出すのだ。物語だけでは誰も読まないかもしれないし、ライターも物語を書かないかもしれないが、物とつながることで物語自身も新しい価値を生んでいるように感じられる。

ソーシャルメディアでのストリーテリング

今回の実験によってわかったことは、そのストーリーがフィクションであっても人はそれを問題にしないということである。

ソーシャルメディアを利用しながら、オークションやECサイトを活用して誰でもお店屋さんをやることもできるし、企業もこれまでの販路とは違った形での販売ができるようになった。

個人の顔が見えるソーシャルメディアでは、これまで以上にストリーテリングによって、1つの商品をより魅力的に見せるという手法が求められるようになるのではないだろうか。

2011年、成功の鍵はコンテンツ」でも述べたように、商品の説明を超えたコンテンツが重要になっていくに連れて、ストリーテリングという手法にも今後ますます注目が集まっていくと予測できる。

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