ハイウェイスター

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疾走する犬

「昨日さ、犬が高速道路を走っていたんだよ。」
レベッカが言った。日曜日の午後。私はレベッカに日本語を教え、レベッカは私に英語を教える。そういう約束で私たちは毎週会っていたけれど、この頃はどこかのカフェでお茶をしながら、単純におしゃべりを楽しむためだけに会っていたような気がする。

「なんで?犬が?一匹で?」
私はその状況を想像する。スラリとした黒い犬が、シアトルの街を背景に、アウディを軽々と追い越して疾走していく姿を。

「それがさー、すごい話なのよ。その犬は迷子犬でうろうろしているうちに高速に入っちゃったらしいんだけどさ、結局Twitterで飼い主が見つかったんだよ。」
私はびっくりして身を乗り出す。
「えーどういうこと?どうしてそうなったの?」

メディアよりも影響力があるローカルブログ

「West Seattle Blog、あるでしょう。そこで、情報を集めて飼い主にたどり着いたらしいよ。」

West Seattle Blogは、ウエストシアトルというごく限られた地域に特化した情報を発信しているローカルブログだ。サイトの運営者が元ジャーナリストということもあって、ブログとしての見せ方がとてもうまい。1日に2万ページビューという、ローカルブログとしては驚異的なアクセス数を持っているだけでなく、その地域の企業や店舗などからの広告も定期的に入り、収益化もできているのだ。

少し前に私はシチズンジャーナリズムについての論文を書いていた。その内容について、レベッカに相談したとき、彼女がおもしろい例としてWest Seattle Blogのことを教えてくれたのだった。

「最初にね、そこのブログの人がTwitterを見ていたら、犬が高速道路を歩いている、っていうツイートがたくさん流れているのに気づいたらしいの。だから、ブログにそのツイートをまとめて、『どなたかこの犬を知りませんか』って書いたんだって。」

さすが、元ジャーナリスト。ネタを見つけてから、関連情報を収集し発信するというアクションに昇華するまでの手際が見事だ。レベッカが話を続ける。

「私もその記事を見てて、あーどうなるんだろう、ってハラハラしていたんだよ。だって、その犬は最初路肩を走っていたらしいんだけど、いつの間にか真ん中の車線に入っちゃって、車のほうがなんとか避けていた、っていう状況だったのよ。」
「それは、危ないねぇ。で、飼い主はそのブログに気づいたの?」
「そのブログの記事はFacebookのほうでもシェアされたりしていて、飼い主はそっちから気がついたみたい。」

Twitter、ローカルブログ、Facebookの連携。飼い主がソーシャルメディアを使って迷子になったペットを探すという話は聞いたことがあるが、見かけた人からの情報がきっかけで、飼い主探しが始まるとは。

「で、犬はちゃんと捕まったの?」
「うん、警察にも通報されていたんだけど、警察が来る前に誰かが保護して、飼い主に届けられたみたい。」

その時飼い主は?

家に戻ってからWest Seattle Blogのページを開く。すると飼い主探しの経緯が簡単にまとめられていた。
最初にTwitterにその話題が出たのが午後3時26分。飼い主と犬が再び会えたのが午後5時22分。2時間弱で事件は決着したということだ。

そして、午後5時37分には、飼い主のクリスがブログにコメントしている。

「僕の犬が帰ってきた!みなさん、本当に本当にどうもありがとう!みんなの助けのありがたさは言葉にできない!犬がいなくなっちゃうなんて初めてのことで、本当にどうしていいかわからなかった。West Seattle BlogとFacebookとTwitterが犬を救ってくれた。みんな、本当にありがとう!!追伸:犬の名前はスターだよ。」

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